日記の科学
反芻思考の罠
日記が逆効果になるのはどんなときか。反芻の研究、考えが空回りしている四つの兆候、そして構造化された筆記が代わりに何をするか。
書くという同じ行為が、癒しにもなれば害にもなる。三日間の構造化 された表現的筆記は、リスクを抱えた学生のうつを半年後の追跡時点で 下げうる。六週間の自由形式の内省的な日記は、和らげるはずだった気分を かえって深めうる。反復的思考の文献には、後者のパターンを指す名前が ある。それが反芻であり、三十五年にわたって研究されてきた。日記を めぐる議論は、この概念とほとんど交わってこなかった。
反芻とは実のところ何か
Susan Nolen-Hoeksemaの1991年の論文 Responses to depression and their effects on the duration of depressive episodes が反応スタイル 理論を提唱した。[2] 反芻とは 受動的かつ反復的に、抑うつ症状とその起こりうる原因や結果に注意を 向け続けることである。鍵となるのは受動的と反復的の二語だ。 自分がどう感じているかを考えること自体は反芻ではない。この構成概念が 指すのは、行動も解決ももたらさないまま、同じ場所を回り続ける思考で ある。
Nolen-Hoeksema、Wisco、Lyubomirskyによる2008年の更新版 Rethinking rumination は、十七年分の証拠をまとめ直し、二つの点で見方を改める。 [3] 反芻は診断横断的である。 うつだけでなく、不安、過食、過剰飲酒、自傷の維持と発症を予測する。 さらに反芻は、既存エピソードの持続よりも、新しいエピソードの発症を より確実に予測する。これはうつであることの副産物ではなく、次の エピソードが訪れる経路の一部なのだ。
rumination exacerbates depression, enhances negative thinking, impairs problem solving, interferes with instrumental behavior, and erodes social support.
中身ではなく、形
Edward Watkinsによる2008年のPsychological Bulletin 総説がこの議論の背骨だ。 [6] Watkinsは反復的な自己への注意に関する 二十年分の研究を概観し、ノートを手にした人にとって本当に意味のある 問いを立てる。同じ認知過程はいつ助けとなり、いつ害となるのか。答えは 三つの調整変数にかかっている。内容の感情価。考え手が置かれた文脈。 そして思考が走る解釈レベル、すなわち抽象か具体かというダイヤルである。
肝心なのはこの解釈レベルのダイヤルだ。否定的な内容を具体的に処理 すれば、何が起きたのか、どこで、いつ、誰が、次は何をするかを問う。 同じ内容を抽象的に処理すれば、なぜ自分はこうなのか、これは自分の 何を物語っているのか、ずっとこのままなのか、を問う。Watkinsの系譜の 実験室研究は、苦痛を与える映像を見せる前に参加者を一方のモードに 訓練し、気分の回復、問題解決能力、侵入的思考の頻度を追う。具体的群は 回復し、抽象的群は気分から抜け出せない。
WatkinsとRobertsによる 2020年の更新版は、解釈レベルのダイヤルを中心に据えたまま、欠けていた 介入の数字を加える。[7]同年に発表 された反芻焦点化CBTを標準CBTと比較した 無作為化試験は、反芻を 標的にした条件に、小さいが実在する優位を返した。
反芻焦点化CBT vs 標準的グループCBT、治療後うつ
d ≈ 0.38
hvenegaard et al. 2020
読み取れるのは、患者の考え方、すなわち抽象か具体かのダイヤルを 標的にすることが、標準的な認知療法に測定可能な上乗せをもたらすという ことだ。治療できるのは内容ではなく、機序のほうである。
日記が反芻に変わっている四つの兆候
日記とは、ペンを手にした自己への注意にすぎない。調整変数はそのまま 当てはまる。記述が省察から反芻へ滑り込んでいる四つの兆候を、解釈 レベルと文脈の文献から直接引いて挙げる。
- 現在形の「なぜ」ループ。記述が、なぜ自分はこうなのか、なぜこれが繰り返し起きるのか、自分の何が悪いのかを問い続ける。Watkinsの訓練パラダイムはこれを抽象的評価モードと呼び、具体的な対極より気分の回復が遅いことを示している。
- 時間が動かない。記述は感情の内側に留まる。気分の前に何があったか、今何が起きているか、次に何が起こりうるかを名指さない。時間は飽和した単一の現在に押し潰されている。
- 具体性がない。場所、人物、出来事の順序、感覚が抜け落ちている。記述は気分の言葉の霧である。具体的処理であれば、部屋を、人を、嫌な響きで落ちてきた一言を、やらずに終わった小さな用事を名指す。
- 解決を試みていない。仮の次に試すことすら現れない。Nolen-Hoeksemaの反芻仮説は、まさに道具的行動の不在に基軸を置く。記述は症状を並べるだけで、何も提案しない。
この四つの兆候は実在する構成概念をなぞっている。三十五年にわたる 実験的・縦断的な証拠が、この形をうつエピソードの長さと、各エピソード からの回復の遅さに結びつけてきた。
ブルーディングと省察は別物だ
特性レベルでこの解離を捉える尺度が、 TrapnellとCampbellの1999年の反芻‐省察 質問紙である。 [5]四つの研究からなる彼らの論文は、 私的自己意識という構成概念を、実証的には無相関の二つの傾性に 切り分けた。反芻は、自己への脅威や喪失や不公平の知覚に動機づけ られた自己への注意であり、神経症傾向と相関する。省察は、自己への 好奇心や認識論的関心に動機づけられた自己への注意であり、開放性と 相関する。反芻は抑うつ症状と相関する。省察は相関しない。
同じ解離は状態レベルでも、 Treynor、Gonzalez、Nolen-Hoeksemaによる因子 分析に現れる。反芻反応尺度を ブルーディング下位尺度と反省的熟考下位尺度に分けたものだ。 ブルーディングは、ベースラインを統制したうえで一年後のうつを予測する。 反省的熟考は、いくつかの分析では一年後のうつの減少を予測する。 外から見ると同じに見えても、下流の効果が異なる二種類の自己への 注意である。
構造化された筆記は反芻しがちな書き手を救う
ここで意外なのは、振り子が逆に振れることだ。Pennebakerの系譜に連なる 二つの明快な研究が示すのは、構造化された表現的筆記、つまり決められた 出来事について二十分のセッションを三〜四回行い、最も深い思考と感情を 書くよう促し、終わりがはっきりしている形式が、まさに反芻文献が警告する リスクの高い下位群に対して、自由形式の内省とは反対の効果を示すという ことだ。
Sloan、Marx、Epstein、Dobbs(2008) は、第一学期の学部生六十九人を表現的筆記または中立的な対照に 無作為に割りつけ、六か月間追跡した。[4] 要点は、明確なブルーディング × 条件の交互作用だった。高ブルーディングの 書き手は、追跡のどの時点でも、高ブルーディングの対照より有意に少ない 抑うつ症状を報告した。省察スコアはこの効果を調節しなかった。構造化 された筆記が助けたのは、自己への注意の不適応的な側面のほうだった。
Gortner、Rude、Pennebaker(2006) は、うつへの認知的脆弱性で選んだ標本に同じプロトコルを走らせ、 機序を追った。[1]六か月時点でのうつへの 治療効果は、反芻反応尺度のブルーディング下位尺度の低下によって 媒介されていた。省察の変化では媒介されていなかった。構造化された 筆記は省察には手をつけずにブルーディング成分を減らし、抑うつ症状は ブルーディングに従って下がっていった。
二つの知見を合わせると、見かけのパラドックスが解ける。紙の上の自己 への注意は均質ではない。形式も時間制限も具体的な出来事もない自由 形式の内省は、抽象的評価の極へ漂流し、和らげるはずだったブルーディング を増幅する。同じ手でも、決められた出来事、二十分、始まりと終わりを 伴うとき、解釈レベルのダイヤルを具体の側へ走らせ、ブルーディングの ほうを溶かす。
一行ログのプロトコルは、構造化 されたやり方の最小単位の形だ。起点、具体的な一文、締め。今日具体的に 何が起きたかを一行で名指す記述は、 日記を書くことの科学が建設的と呼ぶエンジンを 回している。長居してなぜ自分はこうなのかを開いたままにする記述は、 もう一方のエンジンを回している。
反芻の罠とは何で、何ではないか
反芻の罠は内省一般のことではない。感情を名指すこと、悲しみを 書くこと、ページの上で人生について考えることでもない。罠はもっと 狭い。受動的で反復的な思考が、抽象的に、時間の感覚なしに、解決 なしに走ること。先の四つの兆候の凝縮である。臨床的なカテゴリーでも ない。うつになりやすい書き手のほうが、SloanとGortnerが辿った ブルーディングの調節を介して、より確実に陥る。脆弱性の低い書き手も、 ある晩だけ陥り、朝までに抜け出すことがある。時間帯の問いを決着させるRCTはまだないが、概日リズムの示唆も同じ方向を指している。罠は記述が取りうるひとつの 形であり、その形を見分けられれば、次の記述はそれを避けられる。
反芻の文献は日記そのものを警告しているのではない。日記が走らせる ことも拒むこともできる、特定の形をした自己への注意のほうを警告 している。
参考文献。
- 1.Gortner, E.M. et al. (2006). Benefits of expressive writing in lowering rumination and depressive symptoms. Behavior Therapy 37(3), 292-303.doi:10.1016/j.beth.2006.01.004
- 2.Nolen-Hoeksema, S. (1991). Responses to depression and their effects on the duration of depressive episodes. Journal of Abnormal Psychology 100(4), 569-582.doi:10.1037/0021-843X.100.4.569
- 3.Nolen-Hoeksema, S. et al. (2008). Rethinking Rumination. Perspectives on Psychological Science 3(5), 400-424.doi:10.1111/j.1745-6924.2008.00088.x
- 4.Sloan, D.M. et al. (2008). Expressive writing buffers against maladaptive rumination. Emotion 8(2), 302-306.doi:10.1037/1528-3542.8.2.302
- 5.Trapnell, P.D. & Campbell, J.D. (1999). Private self-consciousness and the five-factor model of personality: Distinguishing rumination from reflection. Journal of Personality and Social Psychology 76(2), 284-304.doi:10.1037/0022-3514.76.2.284
- 6.Watkins, E.R. (2008). Constructive and unconstructive repetitive thought. Psychological Bulletin 134(2), 163-206.doi:10.1037/0033-2909.134.2.163
- 7.Watkins, E.R. & Roberts, H. (2020). Reflecting on rumination: Consequences, causes, mechanisms and treatment of rumination. Behaviour Research and Therapy 127, 103573.doi:10.1016/j.brat.2020.103573