ミニマリズム
連続記録への反論
日記の連続記録は有効か。Lally 2010の missed-day finding、習慣が実際に何で動いているか、そしてなぜ途切れた鎖は失敗ではなく仕切り直しなのか。
連続記録は、ここ十年でもっとも普及した日記機能である。 Day Oneにもある。Stoicにもある。売り文句は単純だ。連続した日々の 鎖こそ、自分が現れた可視の証拠である。鎖が途切れれば、鎖は消える。
この売り文句は行動変容の科学のように響く。だが違う。行動変容の文献 を丁寧に読むと、別のことが書いてある。連続記録という枠組みにとって 少々ばつの悪い話だ。連続記録は連続記録を測っている。実際の習慣は 別の仕組みで動く。そして習慣形成についてもっとも引用される論文には、 平易な英語で、日記の連続記録を論じるときに誰も引かないfindingが 書かれている。
missed-day findingが実際に述べていること
2010年、Phillippa LallyとUCLの同僚たちは 八十四日間の習慣形成研究 を九十六名の志願者で行った。各自が日課となる行動を一つと、一日に 一度の合図を選んだ。[4] 見出しを飾る数字、 すなわち自動化までの中央値が六十六日というのは、曲線がきれいに 漸近線に当てはまった三十九名についての値で、いたるところで引用される。 同じ論文に載るもう一つのfindingは、ほとんどどこにも引用されない。
Missing one opportunity to perform the behaviour did not materially affect the habit formation process.
支えとなる分析は考察に置かれている。三日続けて行った後、自動化 スコアは四十二点尺度の上で平均して〇・七九点上がる。一日のミスを 挟んだ場合、次に実行された日のrecoveryの伸びは〇・五五点だった。 両者は統計的に区別できなかった。一日抜けても、習慣形成の曲線に 測れる傷は残らなかった。
著者たちは主張の限界を明示している。Armitage 2005を引きながら、 week-longの中断は別物であって、習慣の獲得を確かに妨げると 注釈する。両論文を通して残る読み方は、落ち着いたほうの読みだ。 一日の欠落は問題ない、一週間の欠落は厄介だ。連続記録はその両方を カレンダー上の同じ赤い点に押し込んでしまう。
連続記録は連続記録を測っている
Wendy WoodとDavid Nealの 2007年のPsychological Review論文 は、習慣とは実際何であるかについて、最もすっきりした言明を与えている。 [5]
Once a habit is formed, perception of contexts triggers the associated response without a mediating goal.
仕組みは文脈の手がかりであって、数値の報酬ではない。安定して くり返される状況、ノートパソコンを閉じること、夜のお茶を注ぐこと、 そういったものが引き金になる。WoodとNealはさらに踏み込む。成熟した 習慣はinsensitive to the value of the outcomeである。行動が 走るのは合図が来たからであって、報酬が高いからではない。これが 強化子の脱価値化の文献の経験的な読み方である。
連続記録はその逆の構造をもつ。文脈の手がかりの代わりに、日々の 数値的な随伴性を置く。行動はもはや、鎖を切ってはならないという 理由で走る。鎖が実際に切れたとき、合図は動いていないが、随伴性は 失われている。連続記録は、書き手にカウンターへ反応するように訓練 してしまったのだ。ノートパソコンが閉じる瞬間への反応ではなく。
随伴的報酬の問題
費用はもう一つある。連続記録は行動を自律的なものから目標随伴的な ものへ変える。自己決定理論はまさにこのパターンを百二十八件の実験で 測定してきた。[2] Deci, KoestnerおよびRyanの1999年の メタ分析は、 有形で予期される報酬が自由選択場面の内発的動機づけをdでおよそ マイナス〇・三四ほど引き下げると報告する。もっとも強く損なわれるのは 完了随伴と従事随伴のセル、およそマイナス〇・四前後である。
完了随伴の有形報酬が自由選択場面の内発的動機づけに与える効果
d ≈ −0.44
Deci, Koestner & Ryan 1999
日々の連続記録は、完了随伴報酬として考えうるもっとも純粋な形である。 一件の投稿、一つのチェック、鎖が伸びる。文献の中でもっとも強い 損なわれ効果を示すセルは、連続記録という設計がそっくり収まるセルで ある。連続記録がいつか止まれば、書き手のもとに残るのは、連続記録を 足さなかった場合よりも内発的動機づけがless強い日記習慣である。
連続記録が機能する場面
連続記録で本当に伸びる書き手もいる。研究は、連続記録が決して動機を 生まないとは言っていない。ただ、それが動機づけているのは本来の 行動とはotherなものだという話である。外発的動機づけの基線が 高い書き手や、時間軸の短い目標を持つ書き手にとっては、立っている あいだの鎖は本物の荷重を支える足場になる。Duolingoや言語アプリ群 には、連続記録が日次のアクティブ関与を引き上げる証拠がある。それ 自体はここで争われていない。
論点は、連続記録が失敗するということではない。非対称に失敗する、 ということだ。途切れるまではうまく機能し、途切れたときには実践 そのものまで道連れにする。二百日もちこたえたうえで、支えていた 建物を巻き添えに崩れる足場は、平均すれば良い足場ではない。日記の 文献が描くのはゆっくりと十年単位で続く行動であり、連続記録は マラソン的な実践に重ねられた短距離走の設計である。
崖と仕切り直し
連続記録の失敗のあとには形がある。欠落が現れる。鎖がゼロを示す。 咄嗟に頭をよぎるのは、明日も続けることではなく、放棄である。連続記録 という枠組みの構造は、失われた連続記録は取り戻せないと告げる。だから 行動は連続記録もろともゴミ箱へ落ちる。これを日記の崖と呼ぶことに する。 欠落した一日それ自体は損なっていなかった実践を、欠落した一日が 崩してしまう瞬間のことだ。
組み直しは時間的ランドマークの文献のなかに用意されている。 Hengchen Dai, Katherine MilkmanおよびJason Riisの 2014年のフレッシュスタート効果に関する論文 は、検索量を用いた研究で、月曜、月初、新年のあとに志向的行動が それぞれ14.4、3.7、82.1パーセント跳ね上がることを示した。 [1] 仕組みは、著者たちの言葉で言えば、 ランドマークがnew mental accounting periodsを開き、過去の不完全さ をかつての自己に帰し、人々を望みの追求へと解放するというものだ。
B.J. Foggは Tiny Habitsのなかで、その実践者 側の対応物を名づけている。すなわち、ささやかな行動のあとに置く 意図的で即時の祝祭こそが、習慣を育てる感情を訓練する、というもの だ。[3] 連続記録カウンターはべつの感情を 訓練する。鎖が保たれた日には安堵を、保たれなかった日にはささやかで 私的な悲しみを訓練する。実践が生き延びるために要る感情は、その どちらでもない。
何を代わりに追跡するか
書き手が望んでいる行動は、安定した文脈で、年単位で、たいていの日に 書かれる、特定の具体的な一つの文である。 一行ログのプロトコルが、その 運用形態である。合図には名前がある。文は小さい。締めくくりは 私的なyesである。
文献が指し示すのは、鎖ではなく合図を追うことだ。ノートパソコンを 閉じる。子どもがようやく寝る。 ミニマリズムの柱に属する実践は、記録の 途切れていない長さではなく、引き金の安定によって生き延びる。合図が 来て文が書かれた日には、鎖は無事である。合図が来て何も書かれなかった 日には、必要なら翌日も何も書かなくていい、それから再開すればいい。 習慣は、Lallyに従えば、辛抱強い。脆いのは連続記録のほうである。
百日の欠落をなかに抱えた五年日記は、意味のあるあらゆる尺度で、 欠落のない五年日記と同じ遺物である。どちらにせよ、自分の人生に ついての一千七百二十五の具体的な文だ。
参考文献。
- 1.Dai, H. et al. (2014). The Fresh Start Effect: Temporal Landmarks Motivate Aspirational Behavior. Management Science 60(10), 2563–2582.doi:10.1287/mnsc.2014.1901
- 2.Deci, E.L. et al. (1999). A meta-analytic review of experiments examining the effects of extrinsic rewards on intrinsic motivation. Psychological Bulletin 125(6), 627–668.doi:10.1037/0033-2909.125.6.627
- 3.Fogg, B.J. (2019). Tiny Habits: The Small Changes That Change Everything., Houghton Mifflin Harcourt.source
- 4.Lally, P. et al. (2010). How are habits formed: Modelling habit formation in the real world. European Journal of Social Psychology 40(6), 998–1009.doi:10.1002/ejsp.674
- 5.Wood, W. & Neal, D.T. (2007). A New Look at Habits and the Habit-Goal Interface. Psychological Review 114(4), 843–863.doi:10.1037/0033-295X.114.4.843